それから、数か月ほど経った頃、グループ・カウンセリングの場にこの家の息子が初めてやって来た。ほとんど自分の話はせず他の参加者の話を聞いて帰っていったが、その後も2、3週間に1度ぐらいのペースでグループに参加するようになり、次第に自分の悩みも語るようになっていった。
そして、さらに数か月後、この息子は高円寺の街のケーキ屋さんでアルバイトを始めたことをグループの中で話した。そのケーキ屋さんは、以前母親がおみやげを買ってきてくれたお店だった。息子はこのアルバイトのことを、こんなふうに話した。
「以前母がおみやげのケーキを買ってきてくれたお店で、アルバイトを始めました。ひきこもっている間に家でだいぶ料理などをしていたので、飲食店の仕事に興味が湧いてきたのです。それに、母が買ってきてくれたおみやげの中で一番おいしかったお店で働いてみたいとも思っていましたから、このお店でバイトができることになってうれしく感じています。
それから、両親が家の財産や預貯金のことをくわしく教えてくれたことも、いい後押しになったと感じています。以前は『大企業の正社員になれなければ、今のような厳しい世の中ではやっていけない』というのが口癖だった父も、『うちの資産を考えたら、さほど高収入の仕事を探さなくてもお前ひとりだけなら生活していけるから、就職をあせることはない』と言うことが変わってきましたから、プレッシャーも減りましたね。」
その後、両親のカウンセリングは2か月に1度ぐらいに回数が減り、息子自身の申し出で、息子がグループ・カウンセリングだけでなく個人面接も受けるようになった。また、息子はひきこもりの自助グループにも定期的に参加するようになり、安定した就職を目指しながら、自分と同じようなひきこもりに悩む人の支援活動もしたいという希望を語るようになってきている。
「どうする!?うちの子のひきこもり」〈おわり〉
※来月からは「DV・ストーカー被害の相談編」が始まります。